活動レポート

有害化学物質削減学習会「身の回りの有害化学物質 香りの被害」

2016.7.25

生活協同組合パルシステム東京は7月13日(水)、「身の回りの有害化学物質 香りの被害」と題して、長年、室内空気の調査・研究に従事されている名城大学薬学部教授の神野透人氏を講師に学習会を開催しました。組合員・役職員93名が参加し、全国調査によって明らかになった室内環境の汚染実態や、室内環境化学物質が症状を引き起こすメカニズムについて、最新の研究成果を交えた報告を聞きました。

微量なら安全? 減らない空気中の化学物質とそのリスク

いま、くらしの身の回りをよく見ると、防虫剤や消臭剤、洗剤や入浴剤など、非常に多くの化学物質が使われていることに気が付きます。また、国民生活センターには年々「におい」に関して寄せられる相談や危害情報が増加しています。

化学物質の影響がどれほどなのか。10年以上、室内空気中の化学物質について調査・研究を行ってきた名城大学教授の神野氏はまず、科学技術の恩恵と弊害を天秤にかけ、科学技術と人間との調和を保つための「レギュラトリーサイエンス」と呼ばれる研究分野があることを提示します。そして、化学物質のリスクは「有害性(ハザード)×暴露量」、つまり人の健康や生態系に対する有害性の評価と、どれだけ身体が曝されているかを量る暴露評価とを掛け合わせた数値を指針とし、リスクを許容範囲内に抑えることが重要と説きます。

神野 透人氏

神野 透人氏

「空気中の化学物質というと、まず大気汚染の問題を思い浮かべる方も多いのですが、実は多くの人は1日の大半を室内で過ごしています。試算では汚染された室内の空気から1日約6mg、多い方では約100 mgもの化学物質を体内に取り込んでいます。また、近年は1日に約50mg(薬さじ1杯分ほど)摂取しているといわれる、ハウスダストを介した化学物質の摂取にも注目が集まっています。とくに大人の1/5ほどの体重で、大人の2倍近くハウスダストを摂取してしまう子どもへの影響は注意が必要です。」

室内空気の全国調査では、防虫剤に使われるようなパラジクロロベンゼンは指針値を超える家庭が一定程度あるものの、2000年に指針値が設けられた化学物質(ホルムアルデヒド、トルエン、エチルベンゼンなど)は、一部を除き、ほとんど検出されなくなってきたそうです。その一方で未規制の化学物質も含む、TVOC(総揮発性有機化合物の濃度の合計)は2000年に掲げられた暫定目標値(400㎍/㎥)に対し、50%近くが目標値を超えてしまっていて、くらしの中の化学物質は減らせていない、という実態がわかってきました。確実な効果を狙って防虫剤などを使い過ぎになりがちなことや、香料は鼻が利かなくなってくるとさらに香りを求めて使用量を増やしてしまうことなども原因として考えられます。

また、室内濃度指針値が設定されてから10年以上経過しているため、WHOの基準値の動向も踏まえつつ、指針値の見直しを進めていく必要があります。気道刺激性のあるナフタレンや、発がん性のあるベンゼンなど、実態調査からわかった暴露評価を受けて今後、新たにリスク評価の検討対象とされたものもあります。なお、ベンゼンは自動車の排気ガスによる大気汚染については大幅な規制によって改善されたものの、室内でたばこやお香・蚊取り線香などの燃焼がベンゼンを発生させています。

香りの被害! 進むメカニズムの解明

「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」は、室内環境中の化学物質に起因する疾病として名前は浸透してきたものの、まだ原因解明は進んでいない部分も多いのが実状で、診断には総合的な検討が必要となっています。神野氏は、気道上皮にある「TRPチャネル」と呼ばれるおもに温度刺激を感知するセンサーに着目し、さまざまな化学物質がTRPチャネルを活性化させることを明らかにし、そのメカニズムの解明に挑んできました。

平たく言えば、トウガラシのカプサイシンによる刺激や、メントールがもたらすクール感、わさびからくるツンとした痛みなどを受容するセンサーがそれぞれあり、化学物質の中にもこれらの受容体に刺激を与えるものがあり、炎症などの症状を引き起こすものと考えられます。また、化学物質の複合的な影響は相乗効果でより強い刺激になることもわかってきました。香料成分についての定量的な調査はまだまだこれからとのことですが、今後このメカニズムの解明が進めば、今まで「気のせい、個人の問題」と片付けられがちだった香りの被害に対しても、規制も視野に入れた定量的な議論を行うことができるようになる、と神野氏は展望を語りました。

質疑応答

講演後には、10名の参加者から数多くの質問が発せられました。回答を通じて、体は天然と人工の区別をしないため天然由来であっても過剰な刺激は避けた方が良いことや、室内の化学物質は換気回数を増やすことで減らせること、香料の化学物質は体への蓄積性はなく代謝されることなどが紹介されました。

また、今後、改めてくらしの中の有害化学物質に対して規制を検討していくためにも、症状を引き起こすメカニズム解明に向けて研究に期待するとの声も寄せられました。

講師:神野 透人氏

講師:神野 透人氏

名城大学 薬学部 衛生化学研究室 教授

パルシステム東京は、前身生協の創立以来、一貫して合成界面活性剤を扱わず、石けんの利用を推進してきました。

閉会の挨拶に立ったパルシステム東京 福田哲哉 政策推進本部長は「香りの問題が、なかなか難しい側面を持っていることを学びました。まずは、この問題を認知してもらうことが課題。そして、化学物質に囲まれた生活を何とかしていかなければなりません。」と述べ、今後も環境や健康、そして次の世代に負荷を押し付けないくらしを選択していくことを呼びかけました。

パルシステム東京では、今後も有害化学物質の情報を収集し、広く学習会などを通じてお知らせしていきます。