活動レポート

脳に直接影響を及ぼす「香り」の化学物質|深刻な「香害」の実態を知る学習会を開催しました。

2018.8.10

近隣の洗濯物や職場、学校などで充満する「香害」。
柔軟剤や化粧品などに含まれる香料が原因で化学物質過敏症(CS)になる症例が増える中、日本消費者連盟が2017年に香りの害で苦しむ人を対象にした電話相談「香害110番」のダイヤルは2日間鳴りやむことがなかったといいます。

7月19日(木)、パルシステム東京は「香害学習会 ~『香害110番』を開設して~」と題して、日本消費者連盟・洗剤部会の田中輝子氏を講師に招き、学習会を開催しました。組合員・役職員含め35名が参加し、電話相談で寄せられた事例や香害のメカニズムなど、さまざまな視点から香害の理解を深めました。

パルシステム東京組合員理事 佐藤 奈穏美

パルシステム東京組合員理事 佐藤 奈穏美

「香害」という言葉はここ1~2年でやっと市民権を得てきましたが、いまだ多くの方が苦しみ、その対策も全く進んでいません。
一人ひとりが学ぶことで命と環境、未来を守るのに役立ててほしいです。

「香り」に含まれる化学物質が化学物質過敏症(CS)を引き起こす

2017年7月と8月に実施された「香害110番」には計2日間(8時間)で65件もの電話相談があり、当日つながらずメール・FAXで届いた声を含めると相談件数は実に213件に。反応してしまうものとしては、柔軟仕上げ剤が圧倒的で、次いで合成洗剤、芳香剤、消臭除菌スプレー、香水、制汗剤、農薬・殺虫剤などが挙げられ、日常生活を送れないほどの苦しい症状を抱える方の声があふれました。

身の回りにある化学物質の中でも「香料」ならではの問題点として、田中氏は①4,000種もの成分があり、国内では約300種が製造されていること、②着香製品には複数の成分が使用されているが、物質名は企業秘密であること、③香りは脳に直接作用すること(*)の3点を挙げます。嗅覚が脳と直結しているためか、相談で寄せられた症例の中には「脳がつかまれる感じ」「後頭部をなぐられたような」との訴えも。

*嗅神経の末端(嗅毛)は脳から鼻腔内の天井部分に飛び出した構造で、ニオイ情報は感情や記憶を司る海馬や扁桃体に直接伝わります。

患者以外には深刻さが想像しにくいといわれる化学物質過敏症(CS)。ご近所トラブルなどで、個人の趣向や気質の問題として捉えられがちですが、決してそうではありません。日本にはすでに100万人のCS患者がいるといわれ、化学物質などの刺激を受けることによって、誰もが一定の(個々人の体質によって異なる)許容量を超えた際にCSを発症する可能性があります。

化学物質から身を守るために ~石けんでシンプルな生活を~

「合成洗剤で洗濯したためにゴワゴワになった衣類に柔軟仕上げ剤を使う人が多いようですが、石けんを使えば洗い上がりもやわらかく、柔軟仕上げ剤は不要です」と語る田中氏。消臭剤や除菌剤も使い過ぎや継続利用が原因で免疫力が落ちてしまう危険性もあることから、(普段のくらしには)必要がないと訴えます。

また、多くの合成洗剤に使用されている「ポリオキシエチレン=アルキルエーテル」などの成分9種が国のPRTR制度(*)で第一種指定化学物質として指定されていることも指摘。「PRTR制度で指定されている環境汚染物質の排出量のうち、60%以上が家庭からの合成洗剤の成分です。石けんは指定物質ではありません。つまり、私たちが合成洗剤を止めれば減らせるはずなのです」

*PRTR法は「人の健康をそこなうおそれ又は動植物の生育もしくは生育に支障を及ぼすおそれのある」物質を、
使用・生産メーカーに管理することを義務づけた法律。家庭からの排出量も推計で公表されます。
その多くが洗濯用洗剤やシャンプー、台所用洗剤などに日常的に使われています。

質疑応答 ~私たちにできること~

当日は昨年度同様、実際にCS患者や同じ悩み・問題意識を抱える参加者が多く集まり、講演後の質疑応答では活発な意見交換がありました。街中や公共交通機関にもあふれる化学物質のために外出が困難にも関わらず、決死の覚悟で足を運んでくださったという方の声も。

香りや消臭・除菌グッズのテレビCMがあふれるばかりで、あまりにも周知されず、法規制も進んでいない香害問題。田中さんは埼玉県など自治体にポスター掲示で注意喚起を促すなど草の根の運動が成果を挙げ始めていることにもふれ、「東京が変われば、他の地域でも変わる可能性が高くなる。一人ひとりの市民が声を挙げ続けることが大事」と力を込めて訴えました。

※ 本記事は、学習会の内容を元にパルシステム東京広報室にて再編集しています。


パルシステム東京は組合員の安心・安全なくらしと地球環境保護の立場から、石けん利用の推進と有害化学物質削減の取り組みを行ってきました。今後も有害化学物質の情報などを広く収集し、学習会や発行物などを通じてお知らせしていきます。