活動レポート
【食の安全学習会】「持続可能な農業について考えよう」~みどりの食料システム戦略とは?~
2025.11.11
【食の安全学習会】「持続可能な農業について考えよう」~みどりの食料システム戦略とは?~
持続可能な農業の実現に向けて行っている国、産地、パルシステムの取り組みを学ぶ学習会を、10月18日(土)に開催しました。国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)の講師より「みどりの食料システム戦略」について学ぶとともに、パルシステムの産直産地からは有機農業、化学肥料削減への取り組みを学びました。(参加者36組 会場・オンライン併用開催)
「みどりの食料システム戦略」について
農研機構NARO本部みどり戦略・スマート農業推進室の豊島真吾さんより、農林水産省が2021年に策定した「みどりの食料システム戦略」についてお話しいただきました。
農研機構の豊島さん
■「みどりの食料システム戦略」とは
農業従事者の減少・高齢化、気候変動への対応、食料自給率の停滞などの課題に対し、持続可能な食料システムの構築に向け、生産力向上と持続性を実現することを目的に国が策定した戦略です。
農業生産の場面だけではなく、食品ロス削減や食品製造業の生産性向上などを含め、食料システム全体にわたり、2050年を目標年次とした目指す姿とKPI(重要業績評価指標)が設定されています。
~みどりの食料システム戦略における、農業生産に関わる主な2050年目標~
1 農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現(CO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする)
2 化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減
3 輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量の30%低減
4 耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大
■取り組み例
・スマート農業の推進(自動運転トラクターによる省力化、水管理システムで労働力削減)
・水田の中干し期間延長による温室効果ガス(メタン)削減
・化学農薬削減:天敵を活用したダブル天敵技術、超音波による害虫防除技術などの実用化
・有機農業に関するマニュアル整備や除草技術の開発を行い、支援を強化
豊島さんは、持続可能な農業の実現には、技術革新と消費者の意識変化の両面からのアプロ ーチが不可欠だと語りました。
パルシステムの「食料・農業政策」について
パルシステム連合会産直事業本部の工藤本部長より、2025年に20年振りに改訂を行ったパルシステムの「食料・農業政策」についてご説明いただきました
パルシステム連合会産直事業本部 工藤本部長
「4つの基本方針を遵守しながら、地域と一体となった食料生産体制の構築が急務」と話し、取り組みを継続し、有機農業の拡大を図る方針を示しました。
■4つの基本方針
(1)【食料安全保障】農畜水産業の生産者と連携し、食料自給率向上と安定供給を推進します。
(2)【持続可能な生産と消費】地域資源を循環活用した、持続可能な生産方法の普及と消費拡大を推進します。
(3)【食の安全と安心】食料の安全性の確保と情報発信により、食の安全と安心を実現します。
(4)【食を通じた地域づくり】生産と消費の力で豊かな地域づくりを広げます。
「4つの基本方針を遵守しながら、地域と一体となった食料生産体制の構築が急務」と話し、取り組みを継続し、有機農業の拡大を図る方針を示しました。
環境保全型農業に取り組む産直産地
①JA新潟かがやき 青空ファーム代表 青木 等さん
阿賀野市 農林課 農林企画係 古田島 和人さん
JA新潟かがやきは、前身の一つであるJAささかみの時代から、40年以上前よりパルシステムと産直提携を結ぶお米の産地。エコ・チャレンジ米や有機米の栽培にもいち早く取り組み、環境保全型農業をすすめる産地です
青空ファーム代表 青木さん
取り組み① 地域資源の有効活用
おから、酒粕などの地域資源を活用したぼかし肥料を製造し、化学肥料の使用量を削減。有機肥料を多く含んだ良質な土づくりをすることで、温室効果ガスの原因でもあるメタンガスの発生を抑制します。また、余剰の籾殻を活用した猫砂開発など、地域資源の有効活用に取り組んでいます。
取り組み② 農薬削減
田んぼに生える雑草は、除草剤ではなく出来るだけ草刈りで対応しています。また、アイガモ農法を取り入れ、雑草の成長抑制や、根の活性化を行っています。
(右)阿賀野市 農林課 農林企画係 古田島さん
取り組み③ 行政による有機農業支援
阿賀野市では乗用除草機やアイガモロボットの導入支援を実施し、
農業支援サービス事業体を通じて、新規参入者の負担軽減を図っています。
また、学校給食での有機米・有機野菜の活用も進め「オーガニックビレッジ」
の取り組みを進めています。生産者、農協、行政の三者連携により課題解決を目指しています。
最後に青木氏は「子どもたちに誇れる農家になるため、地域全体で持続可能な農業を実現したい」と語り、次世代への農地継承を見据えた地域づくりに取り組んでいると話しました。
JA新潟かがやきは、パルシステム東京組合員を対象とした産地交流企画を実施しています。また、パルシステム東京が都内小学校等を対象として実施している「お米の出前授業」では、青木氏を講師としてお迎えした特別授業も行っています。
②かごしま有機生産組合(鹿児島県) 有馬 亮さん
かごしま有機生産組合は、1970年代の水俣病などの公害問題を機に、化学肥料や農薬を使わない農業を目指して設立されました。現在は160名を超える有機生産者の団体となり、100種類以上の野菜と20種類の果樹を生産しています。(そのうち約100戸が有機JAS認証を取得)。
かごしま有機生産組合 有馬さん
取り組み① 生産体制の強化
品目ごとに品質向上の勉強会を行う「品目部会」、地域ごとに横のつながりを作り、新規就農者の孤立防止や農地承継をサポートする「支部会」などを定期開催し、生産者が安定して農業に取り組める環境を整備しています。
取り組み② 新規就農者支援の仕組み
技術研修はもちろん、地域への溶け込みを重視した総合的な支援を実施。多角的にサポートし、行政との関係づくりや農地確保を支援する体制を構築してます。
取り組み③ 有機農業を活用した地域活性化
自治体と連携し、有機農業を活用しながら過疎化防止に取り組み、就農または有機農業への転換を志す全国の方々に新規就農者支援活動も行っています。
新規就農者支援により、国全体の平均と比べて30代・40代の若い農業者の割合が高い年齢構成を実現。また、「オーガニックで未来へつなぐ」を合言葉に、持続可能な農業の発展を目指していると話しました。
講演中の様子
講師の皆さん
参加者アンケートより
参加者からは「みどり戦略について、不明だった点が解消出来た」「生産者の方々のお話は次世代の農業に希望を感じる内容だった」などの感想が寄せられました。
パルシステム東京では、引き続き「食の安全」についての情報発信を続けていきます。