お知らせ

「いきモニ」プロジェクトの集大成|『ネイチャーガイド 東京のチョウ』が完成!!

2016.3.15

このたび、2009年から2014年までに「いきモニデータベース」に報告された29,608件のデータの中から、5科86種の東京のチョウについて種別にまとめた冊子『ネイチャーガイド 東京のチョウ』(クリックでPDF閲覧可/108p)が完成しました。「幼虫期の食餌植物」や「みつけやすさ」を掲載していますので、調査や観察などの目安にしてください。

※「いきモニ」…生物多様性保全の一環として、「中央大学・東京大学・パルシステム東京 協働プロジェクト」においておこなっている市民参加の生き物モニタリング調査。

※このプロジェクトは2021年3月末をもって終了します。

「いきモニ」プロジェクト研究者 鷲谷いづみ教授からのメッセージ

世界に誇る市民科学としての東京蝶モニタリング

 

「 生物多様性の保全と持続可能な利用」すなわち「自然との共生」が国際的にも国内でも社会的な目標の一つとなり、市民科学による生物多様性モニタリング、すなわち市民が主体となる科学的な取り組みによる「野生生物調査」が世界的な発展をみせています。市民が野生生物に関するデータを集める取り組みは、欧米では1世紀以上の長い歴史をもっています。その主な対象は鳥類や蝶類など、市民がとくに関心を寄せる身近な生物です。最近になって、IT 技術のめざましい発達により、その取り組みは、飛躍的に多くの市民の参加を得るとともに、その科学的な質を高めてきました。昨今では、自ら野外で大量のデータを収集することが難しい生態学研究者が、公開されている市民科学データを用いて研究を進めることも多くなってきました。

 

東京大学地球観測データ統融合連携研究機構の研究プロジェクトに参加していた保全生態学研究室(現在、中央大学理工学部人間総合理工学科保全生態学研究室)と東京大学生産技術研究所喜連川研究室は、東京に多くの組合員をもつ生協、パルシステム東京と協働して、2009年から、「いきモニ(いきものモニタリング)」の略称をもつ、東京の蝶を対象とした市民調査「市民参加の生き物モニタリング調査」を通じて、市民科学のもつ科学と参加における意義を実践的に確かめる研究を進めてきました。

生物多様性の保全が社会的な課題となる一方、地球温暖化が急速に進行する中で都市気候(ヒートアイランド)により一歩先に温暖化を経験している大都市での生物相変化の正確な把握は、これら地球環境問題を科学的に認識するための科学的課題の一つとなっています。科学と広範な市民の参加の統合をめざし、パルシステム東京と手を携えて私たち研究者が8年間続けてきた取り組みは、東京の蝶の現状を的確に反映した科学的データの蓄積とモニターとして参加した方たちの認識・関心の深まり・広がりという、貴重な成果をあげることができました。

 

「いきモニ」の特徴は、蝶の同定に自信の無い初心者でも、写真を添付してインターネットで調査結果を報告すると、専門家の同定により正しい蝶の種名を知ることができるところにあります。そのため、参加すれば誰もが学びつつ、信頼性の高い科学的データをデータベースに投入することができ、科学に貢献できます。データは公開され、市民も研究者も貴重な情報源として、現状分析や研究に用いることができる「公共財」として社会の財産ともなります。

このネイチャーガイドは、そのような一石二鳥・三鳥の効用をもつ市民科学の実践によって蓄積された貴重なデータとモニター(モニタリング参加者)のみなさんが撮影した素晴らしい写真をもちいて作った、東京の蝶を楽しみながら学べるビジュアルなミニ図鑑です。パルシステム東京と私たち研究者が共同編集したこのガイドを手に、これまで蝶に目を向ける機会のなかったみなさんが蝶の観察を始め、「いきモニ」のデータのいっそうの充実に寄与してくださることを願っています。

 

研究プロジェクトとしての「いきモニ」はこのネイチャーガイドの出版をもって次の段階に進みます。研究プロジェクトにかかわっている私たち研究者は、「いきモニ」が次のステップ、すなわち、実運用の段階に入っていっそう発展し、世界に名だたる大都市東京の自然の変化を広く社会に発信しつづけることを期待しています。

これまでともに「いきモニ」を実践して下さったすべてのみなさま、とりわけ、パルシステム東京のモニターのみなさまと事務局を担当されたみなさまに深い感謝の意を捧げるとともに、いっそうのプロジェクト発展のための協働へのより広範なみなさまのご参加をお願いいたします。

2015年9月吉日

「いきモニ」プロジェクト研究者を代表して

中央大学理工学部人間総合理工学科保全生態学研究室

鷲谷いづみ

※このプロジェクトは2021年3月末をもって終了します。