<人>消費者政策
生活協同組合パルシステム東京の消費者政策
近年、消費者*1が巻き込まれる悪徳商法、詐欺、商品事故などが増加し*2、「消費者問題」として問題になっています。事業者に対して消費者は知識や情報、交渉力に乏しく、ひ とりでは問題の解決が困難です。消費者は助け合い、行政や専門家の手も借りて問題を解決する必要があります。「消費者問題」のほか、消費者には生活の中でさまざまな問題で困っていることや改善の要求があります。そうした課題を含めて、私たちは「消費者課題」として、新しい取り組みの枠組みを考えます。
生活協同組合は消費者である組合員の利益を守る相互扶助の組織として活動をしてきました。今まで生協の中心テーマは「食の安全」でした。生協が地域の中で成長し、最大の消費者団体となった今日、食の安全に加えて、消費者が抱えているさまざまな問題への対応など地域社会への積極的な貢献が求められています*3。
パルシステム東京は「食べものの安全性にこだわり、生活者のくらしと健康を守ります」とい う理念にしたがって、「消費者問題」を組合員の問題としてとらえ、「食の安全」を中心として、
「消費者問題」を含む「消費者課題」へ取り組みを広げていきます。組合員の力を生かし、地域で行政、消費者団体等と協力して、すべての消費者が安心して住める社会づくりをめざして取り組みを進めます。
(消費者問題と消費者課題の関係)
消費に関わる こと |
○食生活 ○住生活 など |
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消費者課題 (消費者が困っていること) |
○食の安全…食品添加物、BSE、遺伝子組み換え、照射食品 ○健康問題…アレルギー、新型インフルエンザ、喫煙問題 ○住宅…耐震、シックハウス症候群 ○教育問題 など |
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消費者問題 | ○悪徳商法…マルチ商法、内職商法、悪質リフォーム | ||
○詐欺…振り込め詐欺、架空請求 | |||
○金融トラブル…多重債務、高リスク投資 | |||
○欠陥商品…蒟蒻ゼリー、湯沸し器、エレベーター など |
*1 「消費者」とは販売者から商品・サービスを購入して消費する人です。消費して生活する人を指す「生活者」は似ていますが、「消費者問題」のように事業者である製造者・販売者と対比される場合は「消費者」が使われます。
*2 東京都及び都内の区市町村が受け付けた消費者相談の合計は、1990年には4万7千件弱でしたが、200 4年には20万件を超えました(その後やや減少)。相談の半数は「架空・不当請求」に関するものでした。(東京都)
*3 国際協同組合同盟1995年大会で採択された「協同組合原則」では、「コミュニティの持続可能な発展のために活動する」とうたわれています。国民生活審議会報告書(2003年)でも、消費者団体に「消費者の健全かつ自主的な組織活動を通じて消費者利益を確保する役割を果たす」こと、特に消費者教育などの役割を求めています。
WTO(世界貿易機関)設立(1995年)によって経済の国際化(グローバリゼーション)が促進され、農業などの国内産業に大きな影響を与え、また輸入食品や輸入製品による事故も起きています。「国際平準化*4」は食の安全などに関わる規制の後退を余儀なくさせました。 1980年代以降に進んだ「価格破壊」の流れや、バブル経済とその崩壊などで、日本経済は混乱し、消費生活に大きな影響を及ぼすと共に、消費者問題増加の要因にもなっていると考えられます。1990年代以降、急速に進んだIT(情報技術)化は家庭にも浸透し、これを利用した架空請求など新しいタイプの詐欺犯罪も増加しています。
高齢者世帯の増加、近隣のコミュニケーションの減少などにより、消費者が悪徳商法などに巻き込まれやすい状況があります。「格差拡大」*5は、収入の面での消費者問題でもあり、また社会を不安定化し新たな社会問題を生む要因ともなります。
これまで消費者の被害を防止する規制などの行政措置は、問題が顕在化してからなされる「後追い行政」でした。水俣病やサリドマイド事件などでは対応の遅れで被害が拡大しましたが、教訓が生かされず、最近も石綿問題、薬害エイズ、薬害ヤコブ病など多くの事件が発生しました。食の安全やその他の消費者問題でも「予防原則*6」が必要です。
1980年代以降進められてきた「規制緩和」「行政改革」によって、消費者保護のための規制は緩和され、都道府県の消費者行政予算は大幅に削減されるなど消費者行政は後退しました*7。しかしガス湯沸器などの製品事故が問題になったことを契機に、消費者の安全、安心にかかわる問題について幅広く所管し、消費者の視点から監視する組織の実現を目指して、 2009年9月に消費者庁が発足されました。真に消費者のための消費者行政を確立するためには、消費者の意見の反映、消費者の参画、予防原則の考え方を取り入れるこ となどが必要です。
*4 国内規制を国際規格に合わせること。国際規格は輸出国に都合よく緩く設定されることが多いのが実態です。
*5 所得格差を示す「ジニ係数」は再分配所得で1981年の0.31から、2005年には0.39になりました(0.3を超えると格差が大きい)。非正規雇用は1990年から2007年までの間に、男子で9%から18%に、女子は3 8%から54%に増加しました。(厚労省調べ)
*6 被害が起こる前に、そのおそれがわかった段階で未然の被害防止対策を打つ考え方。
*7 都道府県の消費者行政予算は2006年度までの5年間に3割以上削減されました。(全国消団連調査)
食の安全をゆるがす事件は後を絶たず、食の不安は高まっていることから、これまで重点としてきた食の安全課題を、一層拡大、深化させて取り組みます。事業面ではパルシステムの自主基準*8に基づき「食の安全」「産直」の取り組みをさらに強化していきます。
組合員向けには、学習会等の企画、ニュースやパンフレット、メールマガジン、ホームページ等の各種媒体での広報を行なっていますが、わかりやすさの追求とともに、より多くの組合員に伝えることに取り組みます。行政に対しては、意見書提出、意見交換会への参加などに取り組んでいます。食の安全行政について、より一層消費者側に立った施策を求めていきます。
家庭用品や住居関連事業についても、品質・安全性の点検を強化します。組合員に健康な住生活を送るための工夫などを伝えるため広報を充実させます。行政にも、規制の改善、事故対策、被害救済を求めていきます。
障がい、病気、アレルギーなどを持つ人や高齢者などへの対応は、組合員の相互扶助組織という生協の性格としても、社会的な責任としても、現在の取り組み*9の拡大を検討しま す。
新型インフルエンザや震災など、国民の生命を脅かし社会的な影響が甚大な問題については、国や行政はもとより、事業者、消費者団体、消費者のそれぞれが役割や取り組みを考えることが必要であり、積極的にその役割を担っていきます。
パルシステム連合会では、組合員のさまざまな問題・トラブルに対する相談活動を行なっています。被害防止のための効果的な消費者への注意喚起に取り組んでいきます。2006年に設立された「生活サポート生協東京*10」は、生活苦や多重債務問題、契約被害などについての取り組みを始めています。被害の未然防止対策、被害救済制度の確立を国に求めて生きます。
*8 パルシステムでは、商品の基準として、産直方針、畜産産直取引規程、農薬削減プログラム、国際産直及び国際提携開発基準、食品添加物基準、遺伝子組み換え作物及び食品に対する方針、微生物基準、容器包装基準などを定めています。
*9 アレルギー用カタログや手数料免除制度、リーディングサービス、英語版カタログなどがあります。一人暮らしの高齢者などでは配達は安否確認の役割も果たしています。組合員活動では、アレルギーに関して学習会や組合員のつながり作りなどに取り組んでいます。
*10生活サポート生協東京は、さまざまな生活の相談、解決のサポートをする組織です。パルシステム連合会も中間法人のサポート基金に出資し、運営に参加しています。
消費者政策を具体化し、取り組みを進めるにあたって、いくつか進め方を改善する課題があります。これらの課題はすべての分野に共通して必要です。
行政などの情報は、必要とされている消費者になかなか伝わらないことが問題です。週1回の配達時に配布される広報物などで、消費者である組合員と日常のつながりを持っている生協には消費者教育の一端を積極的に担うことが社会から期待されています*11。
パルシステム東京は食の安全などの課題で、組合員向けの学習会や広報などに取り組んできましたが、多くの組合員に伝えて生かしてもらう、という面では今なお模索しています。より多くの組合員に情報を伝えるために、学習会や広報のほか、組合員の学習活動などで使える新しいツールや新しい手法など、さまざまな工夫をしていきます。
相談活動などの取り組みを組合員にもっとアピールし、何事でも頼りにされるような存在になることが必要です。また、まだ生協に未加入の消費者にも、消費者問題について知らせ、被害を防止する消費者教育を進めていきます。
①組合員組織の強化
より多くの組合員に働きかけていくためには、組合員参加の新しい形を作っていかなければなりません。これまで作ってきたグループや委員会といった組合員組織、組合員の自主的活動をより一層広げていくことが必要です。また、地域で核になって取り組みを広げる人を育てたり、地域で活動する人・団体との連携を進めます。
②事業活動の強化
生協は食の安全などの組合員の要求を実現するために、事業活動を行なってきました。しかし組合員の信頼に応えきれず、偽装事件や商品事故などに巻き込まれたこともあります。こうした事件に教訓を学び、商品や各種の事業活動の質を一層高める必要があります。
食の安全などの運動を進めるために情報の共有化や共同の取り組みなど、パルシステムの会員生協と連合会、会員生協同士の連携を強化していきます。
また地域の消費者団体、他生協等とも共同した取り組みも求められます。消費者教育などの課題で、行政との連携も必要です。また消費者本位の行政にするために消費者の声を伝えていきます。
*11 脚注2参照
(別表)
◎相当程度やっている ○ある程度やっている △必要だが、やれていない、非常に不十分 ×必要性が低い下線はこれからの重点課題
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生協の事業 |
組合員活動、消費者教育 |
行政 |
商品一般 |
価格表示問題 |
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◎二重価格等の規制 |
悪徳商法(商品) |
○生活サポート東京 |
△消費者への情報提供・注意喚起 |
○消費者の啓発 △被害者救済 |
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物価問題 |
◎適正価格の設定 |
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食品 |
食中毒 |
◎商品の品質管理 |
○チラシ等での注意喚起 ○組合員活動での食中毒予防 |
○保健所行政 ○事業者指導-HACCPなど |
カドミウム |
○米のカドミウム検査と生産地指導 △ニカド電池製品の見直し |
△学習会 △ニカド電池使用調査、回収活動 |
◎農産物のカドミウム実態把握 ○汚染地の低減対策 △米の基準見直し※食品安全委で評価中 △ニカド電池の回収 |
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水銀 |
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○魚介類のメチル水銀注意喚起 △学習会 |
○魚介類のメチル水銀注意喚起 ◎魚介類のメチル水銀実態把握 △蛍光管の回収 |
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アクリルアミド |
△~○菓子類などの低減対策 |
△注意喚起 △学習会 |
○食品のアクリルアミド実態調査 △食品の低減対策 △注意喚起 |
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環境ホルモン |
○容器包装の環境ホルモン対策 |
○情報・考え方の普及 △学習会 |
○環境ホルモンの影響調査(従来の毒性試験の枠を出ていない) |
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「健康食品」 問題 |
○健康食品取り扱いのチェック |
△健康食品の健康被害に関する注 意喚起 |
○規制 ○注意喚起 |
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食生活問題(食育) |
◎野菜などの取り扱い、レシピ提案 |
○食育の推進(食生活改善の提案、啓発) |
○ 食育の推進 |
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BSE問題 |
◎リスク原料の排除 △牛原料の原産地表示 |
○情報・考え方の普及(学習会等) |
○飼料、SRM除去、検査体制 △原料原産地表示 △輸入対策 |
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食品添加物 |
◎自主基準による使用の削減 |
○学習会 △アピール |
○安全性評価、規制 |
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農薬 |
◎農薬削減プログラムによる使用削減 ◎産直事業 |
○学習会、情報提供 ○公開確認会 |
○安全性評価、規制(ポジティブリスト制度) |
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遺伝子組み換え食品 |
○パルシステム商品では主原料に不使用 ○使用状況の表示 |
○学習会、情報提供 △アピール |
○安全性審査 ○環境影響評価 |
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クローン牛 |
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△学習会、情報提供 |
△拡大の動き |
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照射食品 |
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○学習会、情報提供 ○意見書の提出等の要請活動 |
△拡大の動き |
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輸入食品 |
○国産食品の追求 ○輸入食品の安全点検 |
△自給率向上の運動 |
○輸入食品の検疫 △EPA/FTA ○国内農業の保護 |
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原産地表示問題 |
○生鮮食品の産地表示 △~○加工食品の原料原産地表示 |
△情報提供 |
◎生鮮食品の表示 △加工食品の原料原産地表示 |
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家庭用品 |
家庭用品による 危害・事故問題 |
○掲載商品の安全対策(△モニター 制度 △商品検査、点検の強化が必要 ※生協は販売先がわかる利点がある (クレームについて要調査) |
△家庭用品の安全に関する情報提供、注意喚起 |
△事故情報制度(消費者への情報提供が不十分) △安全に関わる基準、規制 |
家庭用品の品質 |
△~○取扱い製品の品質チェック |
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根拠のない家庭用品の問題 |
△取扱い製品のチェック |
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○景品表示法による取締り (不実証広告規制の導入) |
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偽ブランド製品 |
△取扱い製品のチェック |
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◎不正製品の取締り |
住宅 |
シックハウス問題 |
○住宅関連サービス事業(リフォーム) ○家具の低VOC化 ○家庭用化学品の点検 |
△消費者への情報提供・注意喚起 |
○品確法(住宅品質確保促進法) ○厚労省室内空気ガイドライン |
石綿問題 |
◎事業所の点検 △除去サービスの斡旋 |
△消費者への情報提供・注意喚起 (情報提供の仕方に課題あり、安 全対策がセットである必要) |
○公共施設の点検、対策 △民間施設、住宅の対策 |
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家庭内事故 |
○事故防止用品の販売 子供、高齢者、介護 |
△消費者への情報提供・注意喚起自分自身のこととして認識が必要 |
△消費者への情報提供 |
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欠陥住宅問題 |
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地震対策 |
○耐震住宅(補強工事) ○地震グッズの販売 ○耐震診断 ○災害協定 ○災害時の商品供給 |
△地震対策についての情報提供 |
○防災対策 ○公共施設の点検 |
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交通 |
交通事故 |
○配送車の安全 指導員制度(強化が必要) ○共済事業 |
△消費者への情報提供・注意喚起 (交通ルール、マナーを含めて) |
○交通安全対策 △消費者への周知 ○自転車の取締り指導 |
サービス、金融 |
エステ被害問題 |
× |
△消費者への情報提供・注意喚起 |
△消費者への情報提供 △業者の取締り |
サービス契約 問題 |
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△消費者への情報提供・注意喚起 |
△消費者への情報提供 △業者の取締り |
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悪徳商法(サービス) |
○共済事業 |
△消費者への情報提供・注意喚起 (学習会…LPA) |
△消費者への情報提供 △業者の取締り |
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株取引による 損害 |
× |
△消費者への情報提供・注意喚起 |
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サラ金被害、債務 問題 |
○ 生活サポート東京 |
△消費者への情報提供・注意喚起 |
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金利問題 |
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△低金利政策の見直し |
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年金問題 |
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△学習会…LPA |
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健康・医療・福祉 |
医療被害 |
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△相談窓口の紹介 |
△指導強化、監査制度 △被害救済制度 |
薬害問題 |
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△相談窓口の紹介 |
△情報収集制度 △被害救済制度 |
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喫煙問題 |
△店舗での販売 |
△有害性の情報、注意喚起 |
△注意喚起表示、広告規制 |
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○事業所での分煙 |
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△税金 |
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△公共場所等での禁煙 |
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アレルギー増加 |
○アレルギー患者用カタログの充実 (災害備蓄用保存食などを含む) ○アレルゲン表示、ネットでの確認 |
○アレルギーに関する情報提供 ○電話相談(連合) |
○アレルゲン表示義務付け △学校給食での除去食 △備蓄品のアレルギーなどへの対応 |
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新興感染症 |
△事業対応(流行時の配送体制など) △感染予防用品の販売 |
△学習、広報(新型インフルエン ザ対策について学習推進) |
△新感染症対策(新型インフルエンザ対策について意見書提出) |
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介護保険問題、福祉 |
○~△介護事業(陽だまり) |
△組合員参加の福祉活動、助け合い活動 |
△福祉政策(福祉切り捨て) ○福祉サービスの情報(情報が届かない 部分がある) |
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教育・精神 |
いじめ問題 |
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△学習会 |
△~○学校の対応 ○転校制度 △~○相談活動 |
発達障害 |
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△学習会 |
○特別支援教育 |
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有害図書 |
○書籍選定基準 |
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プライバシー 侵害 |
○個人情報保護対策 |
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△個人情報保護法(過剰反応) |
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教育費問題 |
○労金教育ローンの紹介 ○生活サポート東京 |
○LPAの活動 |
△経済格差の解消に関する施策 ○奨学金制度(貧困層増加でもらえない 人が増加) |
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カルト問題 |
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生活協同組合パルシステム東京の消費者政策 2011.12.22